アンズタケ科アンズタケ属

オトヒメアンズタケ

Cantharellus atrolilacinus Eyssartier, Buyck et Halling

オトヒメアンズタケ
千葉県松戸市 2006. 6. 24

あちこちで見かけ,一度見たら忘れられない姿をしているのにもかかわらず,どの図鑑にも名前が載っていない −植物や鳥類ではまずありえないことだが,菌類の世界では残念ながら珍しいことではない。ここ数年,梅雨の頃になるとカシ林で出会うピンク色の傘のアンズタケも,そんなケースのひとつだった。少し古くなると汚らしい褐色になってしまうものの,新鮮な状態ではなかなかの美しさである。

先日,菌類懇話会の例会にて同定をお願いしたところ,Cantharellus atrolilacinus と同じものである可能性が高い,とのお返事を頂いた。コスタリカのカシ林で採集された標本に基づいて,2003年に新種記載された種だ[1]。新大陸と日本と聞くと突飛な感じがしなくもないが,こんなパターンの分布を示す種は他にも幾つか例があり,決してありえないことではない。

ただ,いくつか気になる点はある。まず,典型的なC. atrolilacinus の傘はかなり黒みの強いものであるらしい。種小名は「暗いライラック色の」という意味であるし,記載論文[1]では「傘の中心部はほとんど黒に近い」等といった表現がなされている。論文の著者のひとりであるHalling氏による写真でも,まさにそんな感じの色調だ。また,論文中には「肉に果実臭がある」との記述があるが,わたしが見たキノコではほとんど匂いを感じなかったように思う。

種内の変異の範疇だ,と言われればそれまでなのだが,どうなのだろう。

【発生環境】 コナラ属樹種(大抵はシラカシ)の林内 
【発生時期】 夏〜秋 
【食毒】 食毒不明
【肉眼的な特徴】 傘は径5cm程度で不正円形,周縁は薄く複雑に波打つが,幼時は強く内側に巻き込む。表面はほぼ平滑で粘性なく,ややくすんだバラ色,老成すると黄褐色になる。しわひだは柄に強く垂生し黄白色のち淡黄褐色,傘の周縁近くでしばしば分岐し,浅い連結脈で互いに連結される。柄は長さ5cm程度で平滑,子実層面とほぼ同色。肉はほぼ白色,変色性なし,アンズタケのような芳香はなく味は温和。


アンズタケ属の一種
千葉県松戸市 2006. 6. 24

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